当社は、投資家の皆様との対話を、持続的な成長と企業価値向上を実現するための重要な取り組みの一つと位置付けています。とりわけ、社外取締役と投資家の皆様との直接的な対話は、経営の透明性を高め、多様な意見を経営に取り入れるために不可欠です。機関投資家の皆様との建設的な対話を通じて、当社のコーポレート・ガバナンスに対する資本市場の率直なご意見を伺い、取締役会の運営方針や透明性・実効性への理解を深めていただくため、社外取締役3名によるパネルディスカッション※を開催しました。

※本パネルディスカッションは2025年3月24日に開催し、約40名の投資家・アナリストの皆様にご参加いただきました
――まず、お三方のご経歴を踏まえて「取締役会への評価」をお願いします。
水野 日清食品ホールディングスの取締役会は、私たち独立社外取締役5人と、非独立の社外取締役2人を含めた10人で構成されており、社外からの実効性ある発言が企業価値を高める一助になっていると感じています。私は2016年から社外取締役を務めて、現在は経営諮問委員会の委員長として重責を担っており、適切な経営がなされているかを見ています。
小笠原 社外取締役になるまでは、日清食品グループに対してマーケティングや商品力の強い会社というイメージでしたが、いざ経営に加わってみると、ESGやサステナビリティ経営に対して積極的にトライしていることに気づかされました。例えば、女性活躍推進についても、部門ごとの明確な目標を定めるとともに、管理職を育てるためのプログラムを整備するなど、日々、進化していると感じています。
山口 皆さんもそうだと思いますが、日清食品グループといえば創業家がトップダウンで経営を担う企業というイメージがありました。実際に経営に加わってみると、想像以上に安藤CEOに求心力があると感じました。かと言ってイエスマンばかりではなく、取締役会でも皆さんがダイレクトに発言されていて、非常に風通しが良い組織だという印象ですね。
Q1 貴社の事業にはさらに大きくなるポテンシャルがある一方、投資規律や数字面では弱さがあると感じます。さらなる企業価値の向上に向けて、取締役会のスキルマトリックスや運営、議論の進め方に課題はないのでしょうか?
水野 取締役会でも相当に厳しい議論が交わされているように、スキルセットは十分にあり、全体としてバランスが取れているという認識です。一方で、資料の分量に対して議論の時間が足りないこともあり、そこは課題だと思います。
山口 数年前までの業績の良かった時期には見えなかった課題が、最近になって顕在化しつつある印象です。検討時間が足りないとの指摘は私も同感で、より広範で深い議論ができるよう時間を確保するとともに、議論のさらなる活性化も必要だと思います。
小笠原 取締役会の運営については、構成メンバーをドラスティックに入れ替えることはなくとも、いろんな面で改善されている印象です。これはステークホルダーの皆様との対話を反映してきた結果ですので、今後も社外役員として継続的に改善点を申し上げていきます。

長年にわたり大手スポーツ用品メーカーの経営を担うなど豊富な経験と卓越した見識を有し、多方面で活躍。日清食品ホールディングスにおいては経営諮問委員会の委員長も務める。
Q2取締役会は経営に対して適切なモニタリングができているのでしょうか。例えば、過去に研究支援として大規模な寄付が発表された際も、適切な説明が不足していた印象です。
小笠原 NPOや民間財団での経験から、企業が寄付金を出すこと自体は賛成の立場ですが、そこには戦略が必要であり、ばら撒きであってはならないと思っています。寄付についても、腸内細菌や健康寿命を延ばすという観点での研究が最も進んでいる研究機関への寄付という説明を受けましたし、研究センターの新設には一定規模の資金が必要だというのも理解できますが、1回の取締役会だけでなく、事前にきちんと議論すべきだったと、取締役会実効性評価を通じて意見しました。
山口 寄付について厳しい意見があることは承知しています。また、アナリストの経験がある身からしても、皆さんから「年度末に大きな支出が発表されると、それまでの業績予想に意味がなくなってしまう」と厳しい声があがるのも理解できます。寄付の意義は理解できるものの、こうしたことが続くと株式市場からの信頼を失いかねませんので、規模やタイミングも含めて、より深い議論が必要であると思います

政府系金融機関での国際融資業務、外資系コンサルティング会社での民間公益活動、独立行政法人での海外支援事業、一般財団法人でのインパクト投資活動などを経験。サステナビリティ経営に関する先進的かつ優れた見識を持つ。
Q3取締役会による経営のモニタリング機能に「リターン視点」が欠けているといったことはないでしょうか?
山口 取締役会でも資本コストとリターンに対する議論はありますが、リターンを考える際の時間軸が長いことも事実です。投資金額が同業他社に比べて大きいことに加え、すぐに利益が出るものでなく、不確実性も高いので、途中段階での効果測定など逐次モニタリングを実施し、資本コストに見合うものでなければ投資をやめるとの判断も必要だと思います。
小笠原 モニタリングが重要なのは当然として、新規事業の立ち上げなど「健康とおいしさを両立する」という新しい価値観に対する投資自体は否定しません。近年、投資金額が増えていることについては、1970~80年代に建設した工場が多く、いずれも建て替え時期を迎えるためと理解しています。また、関西工場の無人化などは、今後の人手不足に対応するための先行投資としても合理性があったと考えています。

都市銀行を経て、証券会社にて約20年にわたりリサーチ・アナリストとして活躍。食品・飲料業界をはじめとした消費財産業を専門分野とし、多数の経営トップとの交流を通じて企業経営や財務会計分野に関する豊富な見識を有する。
Q4役員報酬に業績連動型株式報酬を導入し、相対TSRを採用している点は評価しますが、TOPIX食料品対比になっている点に疑問があります。TOPIXを上回っていなければ支払われないといった厳しい設計にするべきだと思いますがどのようにお考えでしょうか。
山口 連結業績に連動する指標として、TOPIXそのものにすべきとの声も理解しています。ただ、足元ではTOPIX食料品対比の相対TSRでも1倍を下回っている状況であり、PERも低い水準にあります。まずは成長を期待していただけるような短期業績をしっかり出す必要があり、そのことを経営者にしっかりフィードバックしていきたいと思います。
Q5現状の株価の低迷や米州事業に対する危機感をどの程度お持ちですか?
水野 グローバルマーケティングを推進する中で、一番の課題は米州事業だと認識しています。特に問題なのは、販売手法が地域によってばらつきが大きいことなどから、利益率が低下してきていることです。中でも米国は、存在感を高める競合への対抗策も必要ですので、強み弱みのバランスをつけていく必要があると思います。今後は総代表を置くことで、ガバナンスを効かせていく体制を整えてまいります。
小笠原 近年の米州事業については、コロナ禍という外部要因がプラスに働いたと捉えており、抜本的な体制強化に向けて、取締役会でも厳しい議論がなされているところです。個人的な意見になりますが、市場と経営の距離を縮めるため、将来的には米国に限らず海外事業を統括する外国人人材を経営の中枢に加えることなども検討すべきだと思います。
山口 米州事業に対する投資家の皆様の懸念は取締役会でも認識しており、現地に進出している同業他社の業績などもしっかり見ていますが、会社側が説明する内容は、まだ腹落ちするまでには現状分析が足りていないと思います。間違った分析に基づく戦略ではうまくいかないので、分析の精度を高めていけるよう、繰り返し指摘していきます。
Q6海外の事業会社に対するガバナンス強化という観点で、課題になっていることを教えてください。
小笠原 コロナ禍で即席めんの需要が高まり、特に米国において価格改定後も数量増が継続し、結果として増収増益となりました。一方で、それ以前は苦しい時期があったのも事実であり、米国だけでなく、海外の事業会社に対して、どのようにガバナンスを効かせていくのかという点は、人材育成も含めて考える必要があると思います。現地で採用するのか、日本から派遣するのか、色々な選択肢があります。取締役会でも毎回のように海外事業の話題が出ており、厳しい議論がなされています。
山口 各市場の分析や現状把握なども含めて、より厚みのある議論が必要だと思っています。課題としてCEO以下で共有されているのは、特にマネジメントレベルにおいて海外事業を担う人材プールの厚みがないということ。これはこれから少しずつ改善されていくはずです。
水野 海外事業のガバナンスを強化するためには「人材」が欠かせません。工場やオフィスなどの施設も必要ですが、実際に仕事をするのは人間であり、その資質や能力、情熱が物事を動かしていきます。各地域にどれだけの人員を置くべきかを含めて、しっかり議論していくつもりです。
Q7国内のグループ会社では、それぞれ特徴の異なる事業を展開されていますが、どのように評価されていますか?
山口 今後はグループ内でシナジーを発揮していきたいですね。例えば、湖池屋は多種多様なマーケティングを積極的に行っているので、そのノウハウを人材交流などによって共有できればと思っています。一方で、ホールディングスによる子会社のグリップが弱い印象があるので、強みの共有だけでなく、ガバナンスを効かせる体制づくりも重視しています。
水野 特徴ある子会社をいくつも持っているのが日清食品グループの強みです。「日清焼そばU.F.O.」や「日清のどん兵衛」など商品力の強いものは、しっかりした利益を生んでいますから、「完全メシ」も積極的なマーケティングによって安定した利益創出を図っていけるはずです。ホールディングスとしても各事業の強みと弱みを把握できており、適切に対応できていると認識しています。
小笠原 業績からもわかるように、どの事業会社も適切な経営が行われており、日清食品出身者が社長を務めているケースも多いので、グループとしてのガバナンスも効いているとの認識です。課題としては、子会社それぞれのROE推移を見定めるなど、ポートフォリオ管理の精度を高めていく必要があると思っています。
―――本日はありがとうございました。
VALUE REPORT
2025
WHO日清食品グループとは?[4.73MB]
- グループ理念
- 社会価値創造History
- 日清食品グループの今
- 価値創造プロセス
- 日清食品グループの6つの資本
- 日清食品グループのコアとなる強み
HOWどのように目指すのか?[19.7MB]
- CSOメッセージ
- CFOメッセージ
- CIOメッセージ
- 中長期成長戦略 2030
- 成長戦略❶ 既存事業のキャッシュ創出力強化
- 国内即席めん事業
- 国内非即席めん事業
- 国内TOPICS
- 海外事業
- 米州地域―米国
- 米州地域―ブラジル/中国地域
- アジア地域/EMEA地域
- 成長戦略➋ EARTH FOOD CHALLENGE 2030
- 気候変動問題へのチャレンジ
- 資源の有効活用へのチャレンジ
- 成長戦略❸ 新規事業の推進
- 最適化栄養テクノロジーの多面展開
- 完全メシを日本から世界へ
- 最適化栄養食の基礎研究
- 人的資本の拡充
- 健康経営・人権への取り組み
- 社外取締役パネルディスカッション
- コーポレート・ガバナンス
- 取締役・監査役
データ [1.11MB]
- 財務サマリー
- 非財務サマリー/主な外部評価
- 即席めんの世界市場データ
- 会社情報・株式情報