海外における原材料の生産過程には、生産地周辺に与える環境負荷、児童労働、強制労働、劣悪な労働環境など、さまざまな問題が潜んでいます。
日清食品グループは、「グリーン調達基本方針」を2007年5月に制定し、環境に配慮した原材料の調達を推進しています。また、製品の品質を保証するために、原材料から製品の製造、出荷に至るトレーサビリティ体制の構築に力を入れています。
こうした取り組みを強化するため、「日清食品グループ持続可能な調達方針」を2017年9月に制定。食の安全に加え、地球環境と人権を尊重し、合法的に生産された原材料の調達を進めていくことを掲げています。その実現のためにはサプライヤーの協力も重要であることから、当社グループの調達方針を周知しています。
また、2025年5月に「日清食品グループ サプライヤー行動規範」を制定し、サプライヤーに遵守を要請しています。
日清食品グループの環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」では、「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を2030年度までにグループ全体で100%」にすることを目標に掲げており、できる限り早期に達成できるよう取り組んでいます。また、国内即席めん事業については、「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を2025年度までに100%」にすることを目標としています。
日清食品グループでは、即席めんの揚げ油などにアブラヤシから採れるパーム油を使用しています。アブラヤシは、主にインドネシアやマレーシアといった熱帯地域で栽培され、一部の農園は熱帯雨林や泥炭地の破壊、生態系への負の影響、農園労働者の人権侵害などの問題を抱えていることが指摘されています。
当社グループは、NDPE※方針を含む「持続可能なパーム油調達コミットメント」を遵守するとともに、持続可能なパーム油の調達拡大に継続的に取り組んでいます。コミットメントの実現に向け、油脂加工メーカーとのエンゲージメント強化と、サプライチェーン上流に位置する搾油工場 (ミル) やアブラヤシ農園に対する包括的な支援の必要性を認識し、アブラヤシ農園への支援活動を積極的に進めています。
当社グループは、「日清食品グループ持続可能な調達方針」に基づいた調達活動を推進しています。NDPEを支持し、取引先をはじめとするステークホルダーの協力を得て、原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油を調達します。
コミットメントに基づく具体的な取り組みとして、ミルの名称や所在地を集約したパーム油のミルリスト※1 を作成・管理し、トレーサビリティ向上に努めています。また、衛星モニタリングツール「Satelligence (サテリジェンス)」を用いて、ミルや周辺のアブラヤシ農園が位置するエリアの森林や泥炭地に対する破壊リスクを検証しています。リスクが高いと判断されたミルについては、購入元である油脂加工メーカーと事実関係を確認し、状況改善に向けた対応策を検討しています。
リスクが高いミル周辺のアブラヤシ農園に対しては、外部専門家と連携し、アンケート調査やダイアログ (直接対話) を通じた現地調査を実施し、生産地の環境や労働者の人権への影響を詳細にモニタリングしています。一部の小規模農家に対しては、RSPO認証の取得支援を実施するなど、持続可能な生産への転換を推進しています。
また、国内グループ会社で使用するすべてのパーム油は、ミルまでのトレーサビリティが確保されたサプライヤーから調達しており、今後は、サプライチェーンの最上流にあたるアブラヤシ農園までのトレーサビリティ確保を2030年までに実現します。さらに、小規模農家を対象とした苦情処理メカニズム※2 の整備を進め、小規模農家の課題や寄せられた苦情を第三者機関と確認・調査し、解決を目指します。加えて、森林破壊や泥炭地の破壊リスク、コミュニティの権利侵害リスクが特に高い地域から、森林フットプリント※3 を順次導入していく予定です。
当社グループは、あらゆるステークホルダーと協力しながら、持続可能なパーム油のサプライチェーン構築に取り組んでいきます。
日清食品ホールディングスは、森林破壊の防止や生物多様性の保全などに配慮して生産されたことが第三者によって認証されているパーム油を調達するため、「RSPO」※1
に2017年10月から加盟しています。また、「カップヌードル」を製造する国内全工場でRSPO認証油を2019年3月から使用しています。現在、「カップヌードル」※2
のパッケージには「RSPO認証パーム油」を使用していることを表す「RSPO認証マーク」をつけています。
日清食品ホールディングスは、多くのステークホルダーの話し合いを経て決まるRSPOの原則と基準に賛同し、RSPO認証パーム油の使用を推進するJaSPON
(持続可能なパーム油ネットワーク) に2019年4月から理事企業として加入しています。
国内の油脂メーカーの調達先である一次精製工場およびその上流に位置するミルにおいて、現地の法令に違反する行為が行われていないことを、油脂メーカーと連携して確認しています。
環境や人権への影響に関して疑義がある現地サプライヤーについては、油脂メーカーと協力し、事実関係の確認と必要な対策を講じています。具体的には、油脂メーカーが管理する苦情処理リスト (グリーバンストラッカー) を通じて、現地のミルや農園の状況をモニタリングし、問題が確認された場合には、是正指導や取引停止などの措置をとっています。
当社グループでは、サプライチェーン上つながりのあるパーム油小規模農家に対する調査およびダイアログを2024年2月に実施しました。信頼性と客観性の高い調査およびダイアログを行うため、第三者機関として「経済人コー円卓会議日本委員会※1」から、現地パートナーとして「SPKS※2」から助言および支援を受けています。
実施背景 | 当社グループでは、「アジア地域におけるサプライチェーンマネジメント体制の強化」を優先的に取り組むべきテーマとして位置づけている。中でも、パーム油小規模農家の人権リスクや生産過程における森林破壊など、環境リスクのモニタリング強化が国際的なイニシアチブなどから求められている |
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実施目的 | 農家とのダイアログを通して、パーム油小規模農家やその周辺地域における人権・環境リスクを詳細に把握する |
2024年2月に実施したダイアログでは、調査対象の小規模農家20名において、人権侵害や環境破壊など喫緊の対応が求められる課題はありませんでした。しかし、2023年3月に実施したダイアログと同様、肥料の高騰が原因で施肥ができずに生産性や収益が低下する事例や、日々の農作業の作業効率を優先して保護具を正しく着用していない事例が確認されました。
また、小規模農家がRSPOやISPO認証を認知していないこと、小地区が発行する土地権利確認書を取得しているものの、国が発行する土地所有権証書を取得できていないこと、適切な農園管理に関する研修の機会を得られないために生産性や収益を向上させるのが難しいことが課題と認識しました。特に、収益の低下や土地権利の未保有などの経済面における課題は、将来的に人権侵害や環境破壊といった他のリスクにもつながる可能性があるため、解決に向けた対応が必要であることが分かりました。
アセスメントや関係者とのダイアログを通じて把握した課題の解決と、小規模農家の生産性と収益の向上を目指し、当社グループでは2024年12月から、パーム油小規模農家を対象としたパイロット・プログラムを開始しました。
本プログラムでは、小規模農家に対して、パーム油の持続可能な生産方法やRSPO認証取得の必要性などに関する理解の向上を図るとともに、認証取得に向けたトレーニングや申請の手続きを支援しています。
実施対象 | 過去にダイアログを実施した、インドネシア南スマトラ州のパーム油小規模農家150名 |
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パイロット・プログラムの期間 | 2024年12月~2026年3月 |
実施パートナー |
コーディネーター:経済人コー円卓会議日本委員会 現地パートナー (農家への支援実施):SPKS |
目標 | プログラムに参加したパーム油小規模農家150名全員がRSPO認証を取得する |
プログラムの主な内容 |
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さらに、ダイアログを通じて明らかになった経済的課題 (例:「小規模農家の生活協同組合が存在しないため、パーム油の原材料となるアブラヤシの実をミルに直接販売できず、仲買人を介して販売することで収益が低下している」、「小規模農家・組合・村単位での収益向上に向けた長期的な金銭管理の必要性」など) に対応するため、プログラムを実施した地域では、生活協同組合の設立支援も行いました。あわせて、組合員の役割整理や必要書類の準備といった組合管理方法、事業整理や事業継続のための金銭管理方法など、組合運営に関するセミナーを実施しました。
当社グループは、今後もこうした調査・ダイアログ・支援を実施し、サプライチェーン上の各ステークホルダーが抱える課題を調査しながら、パーム油農家とのエンゲージメントを強化していきます。また、取り組みを通じて得られた知見やノウハウをサプライチェーン全体に共有することで、持続可能な調達の推進を加速させるとともに、サプライヤーとの信頼関係の構築につなげていきます。特に小規模農家に対しては、支援プログラムを通じて、環境および人権に関するリスクの低減、生産性と収益の向上を図ることで、持続可能な農業への転換を推進していきます。あわせて、潜在的なリスクや懸念を小規模農家から吸い上げられるよう、実効的な苦情処理メカニズムの整備に向けて取り組んでいきます。さらに、サプライチェーン全体に対して「日清食品グループ 持続可能な調達方針」および「日清食品グループ サプライヤー行動規範」の遵守を求め、その実践状況を確認していきます。
当社グループは、持続可能な調達方針に基づき、調達活動を展開しています。
持続可能な品質保証体制を整えるため、「トレーサビリティの取得による環境保護」と「認証制度の活用による食の品質保証」、「産地の発展」に取り組んだ安定調達を目指しています。
当社グループは、計画的な水産資源の管理のもとで生態系が保全され、かつ労働者の人権に配慮された漁業方法によって獲られた水産物の調達を目指しています。
MSC (海洋管理協議会) 認証やASC (水産養殖管理協議会) 認証などを取得した水産物の調達を進めており、日清食品がすり身に使用するスケトウダラはMSC認証を取得したものだけを使用しています。認証を取得していない水産物
(イカ、エビなど) を調達する場合は、当社グループが漁場まで追跡し、水産資源管理に問題がないことを確認できているサプライヤーから調達しています。
日清食品が原材料として使用しているネギとキャベツは、契約栽培されたものを使用しています。日清食品ホールディングスの担当者が農園に赴き、栽培記録と農薬使用記録を確認しています。日清食品が「油揚げ」の原材料として調達している大豆は、持続可能な方法で生産されたことを示すUSSEC (アメリカ大豆輸出協会) 認証のものです。
抗生物質や成長促進剤などの動物用医薬品については、国家基準に合致した適正な使用方法を遵守しています。なお、遺伝子組み換え動物やクローン動物は原材料に使用していません。
また、食肉業者からは、動物福祉への取り組み状況について定期的に報告を受けています。チキンエキスを納品する取引先には、鶏を不適切な環境
(夜間放置など) で飼育していないことを確認しています。ブラジル日清や米国日清ではケージフリー卵が既に導入されており、日清食品でも2023年より一部導入開始しています。
当社グループは、国際的に認知されているアニマルウェルフェア※の基本原則「5つの自由」に配慮します。
日清食品グループは、製品の容器や包装、各種印刷物、段ボール、コピー用紙などに、適切な森林管理のもとで生産されたFSC®※ 認証紙を優先的に利用しています。
日清食品では、2020年9月から「カップヌードル」をはじめとする一部製品の段ボールにFSC®認証紙を使用しています。
明星食品では、FSC®認証紙および生物由来の資源を利用したバイオマスインキの使用を推進しています。「明星 中華三昧」(袋麺) の外装にFSC®認証紙を使用しているほか、「明星 一平ちゃん夜店の焼そば」の湯切りフタにはFSC®認証紙とバイオマスインキを使用しています。また、明星食品が国内で製造・販売する即席麺とスープ製品では、段ボールにFSC®認証紙を使用しており、2021年度中に全量切り替えを完了しました。
対象:国内即席めん事業
原材料 | 認証名 | 調達状況 |
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パーム油 | RSPO |
2023年度に72%導入 2024年度に95%導入 2025年度に100%導入予定 |
エビ | MSC | 主要産地であるインド西海岸でのMSC認証制度導入を支援 |
すり身 | MSC | カニカマなどに使用されるすり身は、2023年度に50%導入 |
大豆 | USSEC | 油揚げに使用される大豆は、100%導入済み |
紙 | FSC | 段ボールケースは100%導入済み |
世界的な人口増加や新興国の経済成長に伴って食肉需要が急速に拡大している一方で、家畜の生産には餌となる飼料や多量の水、広い土地を必要としており、多様な生物のすみかである森林地帯が開拓されてしまうことが問題となっています。また、家畜の生産はメタンなどの温室効果ガスを多く排出することから、地球温暖化の一因となり、絶滅危惧種の増加につながる懸念もあります。
こうした課題の解決策の一つとして、日清食品グループは、大豆たんぱくを主原料とした独自製法による「大豆ビーフ」を開発し、製品への使用を2016年から開始しました。その後も、「大豆ポーク」や「大豆チャーシューチップ」を開発するなど、大豆ミートの使用を推進しています。
また、「培養肉」の研究にも取り組んでいます。「培養肉」とは、従来の食肉の代わりとなる「代替肉」の一種で、動物の細胞を体外で組織培養することによって得られる肉のことです。日清食品グループは東京大学との「培養肉」に関する共同研究を2017年に開始しました。2019年に世界で初めて牛肉由来の筋細胞を用いたサイコロステーキ状の大型立体筋組織の作製に成功し、2022年には日本で初めて研究関係者による培養肉の「試食」を行いました。※
「培養肉」は、食肉の新たな選択肢として大きなマーケットに成長する可能性を秘めています。また、その技術をマグロやうなぎなど、漁獲量が減っている資源に適用することも可能です。
近い将来、「培養肉」が「新たな食の選択肢」となるよう、日清食品グループはチャレンジを続けます。