「先守後攻」の視点で定めた5つの施策に応じて、それぞれ専門組織を整備
日清食品グループでは、2019年に「デジタル元年」のスローガンを掲げ、経営トップ自らがデジタル活用への強い意志を示しました。ITメガベンチャーなどで経験を積んできた私が入社したのも同年のことで、以来、デジタルを駆使した変革を牽引することが自らの使命と考え、取り組んできました。
2022年3月には、今後強化すべき5つの施策を打ち出しました(図1)。デジタル施策には、セキュリティをはじめとした「守り」と、業務の効率化などを図る「攻め」の両側面がありますが、当社グループでは「先守後攻」を徹底しています。いかにデータを有効活用しようとも、ひとたびウイルスやランサムウェアの被害に遭えば、有効活用の価値どころではなくなってしまいます。業務を継続できる環境を守ることが最優先であり、それが他の施策の価値を維持することにつながると考えています。
また、その推進に向けた組織づくりも進めてきました。セキュリティに関しては、外部から専門家を招き入れて「サイバーセキュリティ戦略室」と、グローバルなITガバナンスを強化するために「グローバルITガバナンス室」(現在は、グループ ITガバナンス部に昇格)を新設しました。業務部門のデジタル活用支援については「デジタル化推進室」、データドリブン経営に関しては「データサイエンス室」と、それぞれ専門組織を設けています(図2)。
このように、施策に応じた専門組織を置くことで、当社グループがどこに注力しようとしているのか、組織図を見ればわかるようになっています。これは社内外に対するメッセージでもあり、社会的に価値の高まるデータサイエンティストの獲得にも寄与するものと期待しています。
2030年に向けて強化すべきデジタル施策(図1)

デジタル施策を推進する組織体系(図2)

サイバーセキュリティ対策の徹底とグローバル最適な体制づくり
「先守後攻」を象徴するように、5つの施策の筆頭に掲げているのが「サイバーセキュリティ」です。お客様の個人情報をさほど有していない食品メーカーは、これまでサイバー攻撃の標的となるリスクが低く、社員のセキュリティに対する感度もあまり高くありませんでした。しかし近年、規模や業種業態を問わず、あらゆる組織が標的となり、食品業界でも被害が出ています。そこで、当社も2020年代初頭からサイバーセキュリティ対策とともに社員に対する教育も強化しています。例えば抜き打ちで攻撃型メールを送り、誤って開いてしまった人には個別教育を実施しています。こうした訓練を繰り返すことで、開封率は当初の10%超から、現在では平均 2.2%まで低下しており、公的機関が目標値とする5%を下回っています。さらに、セキュリティ面のリテラシー向上に一定の手応えを感じている一方、ゼロにはならないという認識に立ち、侵入されることを前提とした「発見と対策」に注力しています。グローバルで約1万台を超える端末すべてに導入した監視ツールを確認し続け、外部から侵入されても決して見落とさない防御線を維持しています。
施策の2番目に「グローバルITガバナンス」を置いたのは、中長期成長戦略の柱であるグローバルビジネスの拡大に対し、IT部門がどう寄与していくかという答えの一つです。当社グループでは、各現地法人が主導する地産地消型のビジネスを基本としていますが、セキュリティやAI活用など地域を束ねて実施した方が効率的な領域に関しては、グループとしてガバナンスを利かせるべきです。そこで、グループITガバナンス部が各国のIT担当者をつなぎ、方向性や課題を共有しながらグローバルに連携できる体制を構築しています。
生成AIをはじめ、先進のデジタル技術を全社員が活用できる環境を整備
「業務部門のデジタル活用支援」について、現在、特に注力しているのが生成AI活用の浸透です。生成AIの導入に際して、どの会社もつまずくのが、利用者が社内の一握りに留まってしまうことです。当社でも2023年4月にグループ専用のChatGPT「NISSIN AI-chat」を導入した当初はなかなか利用率が上がらず、いわゆる「3割の壁」を感じました。そこで、デジタル化推進室が取り組んだのが、社内に「スモールサクセス・クイックウィン」を生み出すことでした。つまり、生成AIに関心が高い組織、ニーズのある組織を探し出し、そこと連携して短期間で成果を出し、成功事例として社内外に発信することで、他の組織とも価値を共有していくという手法です。これを繰り返すことで、現在は利用率が全社で6割を超えるまでに高まっています。
一方で、NISSIN AI-chatにはグループ社員のみがアクセスできるなど、情報漏洩リスクへの対処を施しています。また、著作権への抵触をはじめとしたコンプライアンスリスクについても、ガイドライン策定や説明会、さらには「NISSIN AI-chat」を開くたびに注意事項が表示されるなど、対策を徹底しています。ここでも、何らかのリスクにつまずくことがあればAI活用にブレーキがかかってしまうことを懸念し、「先守後攻」を徹底しました。
「先進ネットワーク/モバイルデバイスの活用」については、ネットワーク上のトラフィック増加に見合った投資を続けるとともに、外出先や現場においても必要なデータにアクセスできるよう、モバイルデバイスの活用を推進しています。ウェアラブルデバイスも視野に入れるなど、技術の進歩を見据えたアップデートを続けていきます。
最後の「データドリブン経営に寄与する基盤整備」については、カップヌードルなど既に強いブランドを持っているがゆえに、これまでの勘や経験に頼りがちになる傾向があることに対して「データで意思決定する企業にならなくてはだめだ」という経営トップの危機感から始まったものです。そこで、まず社内の多様なシステムのデータを一元的に集約することからスタートし、約2年半かけて全社統合データベースを構築しました。これによって社内の各部署から必要なデータを手軽にアクセスできるようになりました。AIの進化は急激に進んでおり、もう5年もすればハルシネーションなどの課題も解決され、 AIが必要なデータに自動でアクセスし、レポートを作成することが普通になるでしょう。そうした時代を見据えて、社内のナレッジを整理しておくことがIT部門の役割だと思っています。
一人ひとりがデジタルを使いこなし自ら業務を改革できる組織づくりを目指す
デジタル変革を全社的に活性化させるための方法論としては、トップダウンとボトムダウンの両軸で進めることが有効だと考えています。当社グループの場合、冒頭でも触れたように、経営トップが強いコミットメントを示しており、DX推進にあたってもトップ自らが「DIGITALIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」というスローガンを掲げ、全社に発信しました。これによって社員一人ひとりが自主的にデジタル技術を身につけ、活用する組織文化が根付きつつあります。これに加えて、生成AIのように現場レベルで成功事例を積み重ね、全社に横展開していけば、組織を変えていけると確信しています。

こうした変革を後押しできるよう、ITデジタル人材の育成 とリスキリングも重視しています。2024年には、7つの重点領域に関する多彩なカリキュラムをオンラインで自由に受講できる「NISSIN DIGITAL ACADEMY」をスタートさせました。 2025年度からは、「NISSIN DIGITAL ACADEMY feat. Generative AI」と位置付け直し、生成AI領域の講座を拡充しています。
こうした教育を通じて、非IT企業であってもしっかりとITを使いこなせる組織づくりを進めていますが、一方で、ITデジタル人材を確保し続ける難しさも感じています。
とはいえ、私は決して人材の流動化をネガティブには捉えていません。組織が膠着化しないためには新陳代謝が必要ですし、当社での経験を通じてスキルアップした人材が、また違う舞台で活躍すれば、社会全体にとってプラスになるでしょう。当社で働けば、ITの知識を活かして活躍しながら、さらなるスキルを身につけ、市場価値を上げられる。そんな魅力ある組織をつくることが、結果として社員一人ひとりのデジタル活用を活性化させ、組織のパフォーマンスを高めることにつながるはずです。
今後もこうした組織づくりを通じて、デジタルによる日清食品グループの変革を牽引していきます。
VALUE REPORT
2025
WHO日清食品グループとは?[4.73MB]
- グループ理念
- 社会価値創造History
- 日清食品グループの今
- 価値創造プロセス
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- 日清食品グループのコアとなる強み
HOWどのように目指すのか?[19.7MB]
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- 中長期成長戦略 2030
- 成長戦略❶ 既存事業のキャッシュ創出力強化
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- 国内非即席めん事業
- 国内TOPICS
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- 米州地域―ブラジル/中国地域
- アジア地域/EMEA地域
- 成長戦略➋ EARTH FOOD CHALLENGE 2030
- 気候変動問題へのチャレンジ
- 資源の有効活用へのチャレンジ
- 成長戦略❸ 新規事業の推進
- 最適化栄養テクノロジーの多面展開
- 完全メシを日本から世界へ
- 最適化栄養食の基礎研究
- 人的資本の拡充
- 健康経営・人権への取り組み
- 社外取締役パネルディスカッション
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- 取締役・監査役
データ [1.11MB]
- 財務サマリー
- 非財務サマリー/主な外部評価
- 即席めんの世界市場データ
- 会社情報・株式情報