社外取締役スモールミーティング
企業価値向上に向けた
取締役会の役割とあるべき姿
左から順に
日清食品ホールディングス
株式会社
独立社外取締役
山口 慶子
日清食品ホールディングス
株式会社
独立社外取締役
水野 正人
日清食品ホールディングス
株式会社
独立社外取締役
島本 久美子
日清食品ホールディングス
株式会社
独立社外取締役
櫻庭 英悦
当社は、投資家の皆様との対話を、持続的な成長と企業価値向上を実現するための重要な取り組みと位置付け、定期的に対話機会を設けています。その一環として、2026年6月11日に社外取締役4名と機関投資家の皆様によるスモールミーティングを開催しました。昨年度は約40名の機関投資家の方々を集めたパネルディスカッション形式でしたが、今回は3~4名ずつの2部制で実施したことで、より対話の密度が高まり、幅広いテーマで双方向性の高い議論ができました。本記事は両部で交わされた対話をテーマ別に整理・統合して編集したものです。
Theme 01
環境変化を見据えた課題意識と対応策
昨今の株価パフォーマンスに見られるように、近年、貴社の企業価値が期待に対して劣後しているのではないかと懸念されます。さまざまな理由があるかと思いますが、社外取締役の方々はどのような課題認識を持って、執行側に対して何を提言してきたのでしょうか?
水野私たち社外取締役の役割は、株主の目線でガバナンスの透明性・公正性を確保し、企業価値を高めることにあると認識しており、それぞれの経験や専門知識を活かした議論を重ねています。
山口株式市場からの期待と業績双方から時価総額が低下していると捉えています。特に米国事業の成長低下が課題になっています。役員および執行役員を対象とした特別報告会では「日清食品が株式市場でどう見られているか」をプレゼンするとともに、「社外に発表する計画や目標は株式市場との約束である」という計画の大切さをお伝えしました。
株式市場からの評価が下がっている要因として、ROEや利益率などの目標が計画通りに進捗していない現状がありますが、その理由をどう分析されていますか?
水野近年ROEや利益率が計画通りに進んでいない背景には、3つの要因があると考えています。一つ目は、将来の成長に向けて相当な規模の設備投資を進めていますが、その成果がまだ顕在化していないこと。ただ、食品企業の場合は投資がすぐに売上拡大に直結する業種ではないと理解しています。二つ目は、成長の牽引役と見込んでいた米国事業が、厳しい状況になったこと。三つ目は、内外のインフレ加速によりコストアップが進んでいることです。これらの要因に加え、足元では中東情勢など新たなリスクも発現していますので、先延ばしできる投資は先送りして、必要なところに絞る姿勢で経営するよう提言しています。
櫻庭コロナ禍による需要拡大が今後も続くとの前提で計画を策定した際、私たち社外取締役もこれに同意しており、より慎重な視点を持つべきだったと認識しています。今後の投資に対しては、「右肩上がりが続く」という前提で計画を立てるのではなく、どの規模で何をやるべきか、しっかりと見極めることを重視していきます。
ROE目標を、従来の15%から当面10%に引き下げ、15%の達成時期を2030年以降に見直されました。個人的には非常に現実的な目標になったと認識していますが、見直しの背景などをお聞かせください。
山口今回の見直しは、ROE単独ではなく、中長期の計画の現実性を問い直すものです。計画通りに利益が伸びず、金利上昇で金利負担も増えるなかでは、ROE15%という目標は現実的ではありません。そこで、まずは10%以上への回復を目指し、その先に15%を見据える形に改めました。ただし、これは株主還元や成長投資を弱めることではありません。コスト増を抑えながら収益性をテコ入れし、成長投資と株主還元のバランスを取って企業価値を高める考えです。
日本では長かったデフレからインフレ基調に転換するなかで、「一人当たりの生産性を高める」というマインドが問われています。貴社の経営にインフレマインドが浸透しているのか、具体的な設備投資の考え方も含めてお聞かせください。
櫻庭設備投資については、建築コストの高騰が続くなか、工場集約化などによる生産性向上が喫緊の課題と認識していますので、投資を抑えつつ生産性を高める工夫を凝らしています。関東工場については、リスクが高い立地で老朽化も進んでいることから、新工場の用地を取得済みですが、足元の業績と照らして適切な投資規模を見極める必要があります。

Theme 02
米国市場の立て直しとグローバルな成長戦略
米国事業について業績が一転して厳しくなった背景を、どう分析されていますか?足元で進めている立て直しの評価とあわせてお聞かせください。
水野米国事業の業績が厳しい状況にあるのは、店頭の棚が十分に確保できていないなどセールス面の課題に加え、マネジメント面にも課題があったと捉えています。これまでのような「海外事業は現地の人材に」という考え方ではなく、地域ごとの違いを理解しながら、マネジメント能力のある人材が統括することが肝要だと議論しています。その結果、米州を統括するRegional Headquarters of Americas(RHQ-Americas)を置き、CSOであった横山氏が北中米地域をマネジメントする体制へ移行しました。現在は日本からバックアップしながら進捗を確認しています。
山口米国事業の課題としては、やはり人材が不足している部分が大きかったと感じています。横山氏の派遣に加えて国内で活躍していたマーケターも送り込むなど、人材強化に取り組み始めたことは大きな変化です。大手企業でグローバルに人事改革を手がけてきた濱瀬CHROが加わった影響も大きく、良い方向に向かっていると見ています。
櫻庭米国事業については、営業・市場分析・マーケティング・開発がばらばらに動くという問題があったと捉えており、RHQ-Americasの設置後は速いスピードで動いています。
米州事業に関する課題として、昨年度のパネルディスカッションでは「現状分析が足りていない」との言及がありました。その後の改善状況についてお聞かせください。
山口自社に対する分析はできても、市場、とりわけ競争環境の分析が弱いことが課題だと考えており、そこがガイダンスと業績に乖離が生じる要因だと見ています。昨年より改善しつつあるものの、まだ課題はあると感じています。
島本かつて在籍していた企業の分析チームを紹介したことで、市場分析に用いるデータ量が飛躍的に増えており、データに基づくマーケティングが実現しつつあります。変化の速い消費者の嗜好を繰り返し確認することで、市場分析の精度を高めていく考えです。今後は、日清食品ホールディングスが国内で培ってきたマーケティング力を、いかにスピード感をもって海外に展開できるかが問われます。すでにブラジルでは成果が表れつつあり、心強く感じています。
世界各地で食の嗜好が変化するなかで、貴社は「日本式即席めん」という成長カテゴリーで、その代名詞となる存在を狙っておられますが、この戦略に対する評価をお聞かせください。
島本米国では若年層を中心に日本食が浸透しており、より本場に近いものが求められています。このトレンドに乗って韓国の高級袋めんが普及したことで、即席めんは「スナック」から「ミール(食事)」へと捉え直されつつあり、日本式の本格的なラーメンで勝負できる環境が整ってきました。検索データで「ramen near me(近くのラーメン店)」が急増していることが需要の大きさを裏付けており、即席めん・チルド・冷凍のフルラインナップを提供できる当社にとって大きな追い風になると捉えています。
山口従来の商品戦略は流行を後追いするプロダクトアウト型の傾向が見られましたが、今回発売する「日本式即席めん」は差別化とスケール感を備え、グローバル規模の変革になり得る挑戦だと感じています。不採算ブランドの収益改善などの施策で利益を確保しつつ、短期的な利益のために必要な費用を削ることなく、「日本式即席めん」の立ち上げに向けて覚悟を持って全力で取り組んでほしい旨、取締役会でも伝えております。
企業価値を持続的に高めていくためには、米国事業に限らず、グローバル市場での成長が不可欠です。海外事業全体の方向性や課題意識についてお聞かせください。
櫻庭少子化で国内市場が縮小するなか、海外比率を現状の4割から早期に5割、将来的には6〜7割へ高めなければステージアップは図れません。そのためには、各国の特徴に根差した戦略を描いていかなければなりません。
水野現在は米国事業の立て直しに注力している状況ですが、他地域への目配りも忘れていません。中国・香港・アジアは同様にRHQ体制のもとで利益を出しており、中東・欧州は抜本的な手は変えず、少しずつ改善している段階です。
山口海外事業の強化には、やはり人材育成が欠かせません。濱瀬CHROにも「海外に根付いた事業ができる人を育てるメカニズムを作ってほしい」と話しています。具体的には、To-Beの組織像から逆算して、地域ごとにサクセッションプランを構築・実装していくという形で進めています。
Theme 03
ESG施策と企業価値の向上
ESGインパクトの可視化など先進的な取り組みを進めていますが、サステナビリティの取り組みは、短期的にはコスト増加要因となります。インフレ下で負担が高まるなか、中長期的にはどのように業績や企業価値に結び付けていこうと考えていますか?
水野サステナビリティには「地球環境の持続可能性」と「事業そのものの持続可能性」の両側面があると捉えています。環境面では長期的な視点での環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」のもとで各種の取り組みを進めており、事業面でも長期的な視点に立った経営のもと、安定した収益を上げて着実に企業価値を高めていく考えです。
櫻庭社外取締役としてサステナビリティ・アドバイザリーボードに加わり、その成果を取締役会に報告しています。ESG施策は、短期的にはコストアップになったとしても将来はコストダウンにつながると認識しています。例えば、本格化する排出権取引にはScope1・2の削減やデータ整備が欠かせず、足元はコスト増を伴いますが、こうした地道な対応が将来効いてきます。また、2030年からのポストSDGs時代では「ウェルビーイング」が大きな柱になるとされており、当社の「完全メシ」が開花する可能性が高まると期待しています。
パーム油など持続可能な調達への取り組みを進めていますが、掲げた方針と実態とに食い違いがあると、「言っていることと、やっていることが違う」と映ってしまい、株式市場からの信頼を失いかねません。第三者チェックなど、リスクを監督する仕組みはあるのでしょうか?
櫻庭パーム油については第三者認証であるRSPO認証油の比率を高めており、国内分はほぼ100%を達成しましたが、グローバル全体ではまだ道半ばです。認証産地でのディスカッションや農法支援、製油会社との協働などを通じて、認証油100%を目指しています。
水野企業倫理の観点からも現地生産者との直接対話は欠かせません。「言っていること」と「やっていること」の整合性も含め、サステナビリティ委員会が厳しくチェックしていますが、ご指摘については肝に銘じたいと思います。
Theme 04
株式市場の信頼に応えるコーポレート・ガバナンス
コーポレートガバナンス・コードの改定によって取締役会の構成や報酬に対する株主・投資家の関心が一段と高まっています。貴社の現状を見ると、商社出身の社外取締役が東証の独立性基準を満たしていないこともあり、独立社外取締役が過半に達していません。株式市場から見て隙のない経営を実現するため、過半を確保すべきでは?
水野現在、当社の取締役10名のうち7名が社外取締役で、そのうち5名が独立社外取締役です。特に商社出身の方々がもたらす国際感覚と知見の価値は大きく、取締役会の実効性は高いと考えています。一方で、独立比率が過半に届いていないとのご指摘は、重く受け止めるべき課題であり、私が委員長を務める経営諮問委員会でしっかり検討していきます。
櫻庭これまでの取締役会の議論を見ていても、商社出身の方々の発言は有意義なものが多く、案件によっては決議を見送るきっかけとなった場面もありました。そうした経験から、個人的には「独立性という形式」と「企業価値への実質的な貢献」には違いがあるとは承知していますが、ご指摘された株式市場との見解についても、改めて課題意識を持ちました。
創業家が長期にわたり経営に関与するなかで、社外取締役は健全な牽制力を発揮できているのでしょうか?経営諮問委員会の運営も含めてお聞かせください。
水野創業家は長期目線で経営を担っていますが、行き過ぎがあればブレーキ役として牽制・修正するのが社外取締役の務めと認識しています。経営諮問委員会では、役員報酬やサクセッションプランを含む重要議題を、独立社外取締役を中心に踏み込んで議論しており、一定の牽制力を発揮できていると考えています。
CEOはじめ、さまざまなポストのサクセッションプランについてお聞かせください。
山口サクセッションプランは、対象ポストを定めるとともにポストごとに「即時交代が可能な人材」「次期に交代可能な人材」など段階的な登用時期を設定しており、以前に比べてハイレベルな議論が進んでいます。
水野サクセッションプランについては経営諮問委員会でも議論しています。濱瀬CHROのもとで人材施策の強化も進めていますので、今後着実に良くなっていくものと期待しています。
コーポレートガバナンス・コードは、取締役会の運営面でも実効性の向上を求めています。議論の質を高めるためのAIの活用など運営上の工夫があればお聞かせください。
水野取締役会の運営を担う事務局は、非常に緻密に対応してくれていますが、AIを活用することで、さらに議論の質と効率を高められると捉えており、積極的に取り入れていきたいと思っています。
櫻庭実際、取締役会の実効性評価でも「資料が細かすぎる。そこまで必要か」との指摘がありました。要約が得意なAIを活用して論点を絞ったサマリーを作ってもらい、詳細資料と切り分ければ、重要な議題の議論により多くの時間を割けるでしょう。
島本事業の現場では、成田CIOが早くからリードしたことでAI活用が浸透しており、国内でも先行的な事例と言えます。こうした現場の知見は、今後の取締役会でのAI活用にもつながっていくはずです。
株式市場からは、事業ポートフォリオの在り方も問われています。事業リソースの観点から即席めん事業のグローバル化に投資を集中すべきとの意見もありますが、考えをお聞かせください。
水野事業ポートフォリオについては、株式市場からさまざまな声をいただいていることを認識しています。湖池屋との親子上場の在り方や、日清ヨークなど非即席めん事業を持つ意義については、いかに「日清らしさ」を発揮していくかという観点も含めて今後も議論を深めていきます。即席めん事業についても明星食品とのシナジーが問われていますが、簡単に統合するのではなく、同社が長期にわたり築いてきたブランド価値をどう活かすかという視点が欠かせません。「完全メシ」を黒字化する道筋も含め、ポートフォリオの最適化は今後も引き続き議論すべき課題だと認識しています。
本日は、率直な意見を数多くいただき、実りの多いものだったと感じています。日清食品グループが株式市場でどのように見られているのか、何が懸念とされているのか、そうした外部からの視点をしっかり取締役会に持ち帰り、企業価値向上に取り組んでいきます。

VALUE REPORT 2026
02NISSINの成長戦略 [11.9MB]
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- 特集 社外取締役スモールミーティングー投資家との対話ー
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