COOメッセージ
国内で培った日清食品の
勝ちパターンを世界へ
日清食品ホールディングス株式会社
代表取締役副社長・COO
日清食品株式会社 代表取締役社長
安藤 徳隆
二つのスローガン
「100年ブランドカンパニー」と「Beyond
Instant Foods」
私はこれまで、日清食品の経営を通じて、いかに日清食品グループ全体の非連続な成長を実現できるのかを考え続けてきました。
私が出した答えは、「ブランディング・マーケティング」に「イノベーション」を掛け合わせるというシンプルな基本を徹底的にやり抜くことです。企業が本当に飛躍する時、そこには必ず、「まだ世の中に存在していなかった当たり前」の誕生があります。私は、その新しい当たり前を生み出す原動力が、この二つの掛け合わせにあると考えています。
2015年、日清食品の社長に就任した際、私は二つのスローガンを掲げました。一つは、「今ある価値の極大化」。既存事業を深化させる「100年ブランドカンパニー」。もう一つは、「今はない価値の創出」。新規事業を探索する「Beyond Instant Foods」です。
人口減少が進む国内市場において、即席めん事業だけで持続的な成長を実現することは容易ではありません。だからこそ、既存事業を徹底的に磨きながら、その延長線上にはない“次の事業”を、自らの手で生み出していく。その意思を、この言葉に込めました。
日清食品で磨き上げてきた勝ちパターン
2026年は、カップヌードル55周年、日清のどん兵衛・日清焼そばU.F.O.50周年という、大きな節目の年になります。その過程で私たちが国内市場で磨いてきた「ブランディング・マーケティング×イノベーション」は、単なる手法ではありません。試行錯誤の中で鍛え上げてきた、“経営そのもの”です。
根底にあるのは、創業以来変わらず大切にしてきた価値観です。
「Creative・Unique・Happy・Global」
新しい発想で独自価値を生み出し、人々に喜びを届け、それを世界へ広げていく。この思想が、私たちの原点です。
私たちは世界初のチキンラーメンを生み出して以来70年近くにわたり、即席めん事業と向き合ってきました。その中で一貫して追求してきたのが、「カテゴリーの在り方を再定義するプロダクト」です。
世界100カ国以上で食べられているカップヌードルは、単なる即席めんではありません。「カップヌードルとともにある体験」そのものをカタチにしたブランドです。唯一無二の味と世界観をつくり、記憶に残るブランドにする。私たちのブランドづくりは、いつもそこから始まります。
日清カレーメシも同様です。発売当初、「ラーメン会社がカレーを?」という声は少なくありませんでした。しかし私たちは、“スナック感覚のカレー”という新しいコンセプトを提示し、カップライス市場を切り拓いてきました。その結果、日清カレーメシシリーズは200億円規模のブランドとなり、いまだに成長を続けています。当たり前を少しずらす。しかし、ニッチには逃げない。最初から、マスのど真ん中を取りにいく。私は、この設計思想が、ブランドの成長角度を決めると考えています。
そして、その価値を一気に広めるのが、「大胆かつ効率的なコミュニケーション」です。日本の消費財市場では、“売場で最初に思い出されるブランド”が選ばれやすい傾向があります。私たちは一貫して、「記憶に残り、買ってみたくなるコミュニケーション」を徹底的に追求してきました。
私たちのCMは、比較的少ない投下量にもかかわらず、2024年、2025年と2年連続でCM総合研究所「BRAND OF THE YEAR」を受賞するなど高いブランド評価を獲得しています。一見すると“尖りすぎ”に見えるプロモーションにも、ブランドの世界観との親和性、他のCMに埋没しないためのインパクト、そして「買ってみたい食べてみたい」を刺激するギミック――そうした要素を意図的に組み込んだ緻密な設計が背景にはあります。広告投下量という力技だけで押し切るのではなく、少ない手数でも記憶に残す“突破力”こそが、私たちの強みです。
こうした勝ちパターンは、国内グループ会社にも共有され始め、新しい有力ブランドが育ち始めています。日清ヨークの「ピルクル ミラクルケア」、湖池屋の「プライドポテト」など、数十億円規模へ成長したこれらは、その代表例です。今後は、この勝ちパターンをグローバルでどう実装していくのか。私たちの挑戦は、次のフェーズへ移りつつあります。
国内の強みを海外へ展開――The BOLD SIDE of JAPAN
近年、グローバルの経営環境は、地政学リスク、異常気象、為替変動など、不確実性が急速に高まっています。また、即席めん市場においても、新たなプレーヤーの台頭によって、市場構造そのものが変化し始めています。グローバルにおいても従来と同じやり方だけでは、持続的な成長は難しい。だからこそ今、国内で磨いてきたブランディング・マーケティング×イノベーションを海外で活用することが、次の成長のドライバーになると考えています。
事実、ブラジルや欧州では、国内で培った勝ちパターンに基づいた施策で結果が出始めています。
ブラジルでは、プロモーションを展開すると、「また日清がおかしなCMをやっている(笑)」と当然のように話題になるほど、ブランドイメージが定着しています。日本のチキンラーメンをセルフパロディ化したCMの拡散などを通じて、日清食品は「マーケティングに強い会社」として認知されています。欧州では、「Soba」ブランドとして展開する日本式焼そば商品が、売場の主要カテゴリーの一つとして定着し始めています。和食人気の高まりも追い風となり、「本格的な日本の味」を再現した商品は、プレミアム価格帯でも支持を獲得しています。
重要なのは、他国メーカーと単純な価格競争をすることではありません。アジアンフード市場の拡大という追い風を捉えながら、私たちにしかできない日本式を武器に戦うことです。
そのグローバル展開を加速するコンセプトが、「The BOLD SIDE of JAPAN」です。海外では、日本は「上品で繊細」というイメージで語られがちです。しかし、私たちは「繊細」だけにとどまらず、「本格」「大胆」「リッチ」という、もう一つの日本の魅力を上積みし、日清食品にしかできない世界観を提示します。日本式の味覚 × 即席めんというハードに、世界的人気を誇る「日本のポップカルチャー」をベースにしたプロモーションを掛け合わせ、マス市場の中核を一気に攻める、これがこれからのこのグローバル戦略の骨格です。2026年以降、この「The BOLD SIDE of JAPAN」を、米国、ブラジル、欧州の3地域で一気に展開していきます。
完全メシとフードテック――もう一つの成長エンジン
一方で私たちは、即席めん事業とは別に、もう一つの成長軸を築こうとしています。それが、「Beyond Instant Foods」として掲げた最適化栄養食事業です。
1958年の創業当時と比べ、社会は大きく変わりました。
飢餓と栄養不足の時代から、飽食と健康課題の時代へ。食品ロスが社会問題になるほど豊かになった一方で、オーバーカロリー、隠れ栄養失調、フレイルといった新たな課題が生まれています。
これだけ時代が変わるのであれば、食品メーカーの在り方そのものも進化するべきではないか。その問いに対する、私たちなりの答えが「最適化栄養食」です。
私がこの領域で目指しているのは、「食と健康のリフレーミング」です。
世の中には、「インスタントフードは健康に悪そうだ」という固定観念があります。また、「健康のためには我慢が必要だ」という常識もあります。私たちは、新しい価値を提供するインスタントフードを発売し、そのような前提をひっくり返したいのです。食欲に寄り添いながら、暮らしを大きく変えることなく、自然と健康になれる世界をつくる。そして究極的には、「この世で最も健康的な食事はカップヌードルだ」と言われる世界を、本気で目指しています。
1食で必要な栄養素を摂取できる、というコンセプト自体は単純です。しかし、それがこれまで実現できなかったのには理由があります。ビタミンやミネラルは、強い苦味やえぐみを持ち、通常の食事に加えると、おいしさを損なってしまうからです。体にいいからと我慢を強いても結局は続きません。この課題に対し、完全メシは、「33種類の栄養素」と「おいしさ」の“完全なバランス”を徹底的に追求しました。
私たちには即席めんを磨き続ける過程で培った多数のフードテックがあります。「カロリーオフ技術」 「減塩技術」「減脂技術」「味の再現技術」 「アドバンスドマスキング」 「減衰シミュレーション」といった独自技術を応用し、組み合わせることで、高度な栄養設計を実現しました。栄養が時間とともに変化することまで前提に設計し、最終的に商品として成立させる。このレベルで、栄養とおいしさを両立できている企業は、現時点では世界でも当社しかないと確信しています。この最適化栄養テクノロジーは、めんだけでなく、米、パン、惣菜など、幅広いカテゴリーへの展開が可能になっています。商品単体ではなく、「食そのものの可能性」を拡張しているのです。
事業としても、確かな手応えが出始めてきました。
完全メシの2025年度の売上は100億円(市場価格換算)を突破、2026年7月末時点で、国内累計販売食数は7,400万食に達しました。特筆すべきなのは、量販店での売上がコンビニエンスストアを上回り始めたことです。新しいコンセプトの商品は、まずアーリーアダプターに受け入れられ、その後、マジョリティの日常へ浸透していきます。コンビニ中心の“トライアル期”を超え、リピート購入を意味する量販店販売が主軸になり始めたことは、完全メシが「話題の商品」から「日常の食」へ移行し始めた証だと考えています。完全メシは今、市場浸透のPhase1から、規模拡大のPhase2へ着実にステージを上げています。
2025年度から始めた海外展開についても、確かな感触を得ています。米国では、栄養密度が高いことから、GLP-1※利用者向けの食事としてメディアに取り上げられるなど、新たな視点で評価される動きが見られました。欧州でも、高価格帯でありながら、高い栄養スコアを持つ商品として支持されています。国内以上に海外バイヤーの反応は良く、私はこの市場に大きな可能性があると考えています。
一方で、海外には、生産・物流・営業網など、日本とは異なる課題があります。私たちは、いたずらに自前主義に固執するのではなく、提携やM&Aも含め、あらゆる選択肢を活用しながら、高いスピード感で最適解を探っていきます。
2028年度を目途に、まずは国内黒字化を実現し、その先は海外への投資比率を高めながら、事業ごとに黒字化を目指します。必要な投資は惜しみません。最適化栄養食事業を、即席めん事業に並ぶ、新たな事業の柱へ育てていきます。
私たちが最終的に目指しているのは、「ジャンクなのにヘルシー」という逆説が、当たり前になる世界です。
既存ブランドと最適化栄養食が対立するのではなく、境界を越えて一体化していく。
好きなものを、好きな時に、好きなだけ食べても大丈夫な世界。
創業者が即席めんという新しい食文化を生み出したように、私たちは次の食文化を創りにいきます。
※GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1):食欲抑制や血糖値コントロールに関与する消化管ホルモン
最適化栄養テクノロジー
企業成長の起点は「人」
ここまで述べてきた戦略を実現するうえで、不可欠なのが「人」と「組織」です。
私は、“クリエイティブ”とは、デザインやCMのことだけだとは思っていません。商品開発、プロモーション、事業設計、組織設計まで含め、そのすべてがクリエイティブです。それらを個別最適で終わらせず、有機的に連動させることで、私たちの強さが生み出されると考えています。
その具現化の一つが、「グローバル戦略部」の新設です。
この組織は、日本で磨いてきたマーケティングを、グループ横断で世界へ展開する中核を担います。経営企画部のプラットフォームの中に位置付け、経営戦略、経営管理、M&A機能とも一体で動ける体制にしました。戦略立案から実行までを分断させず、意思決定と実行のスピードを高めています。
戦略を描くだけでは意味がない。やり切れる人と組織をどうつくるか。私は、これからもその問いと向き合い続けます。
日清食品を300年続く会社にするために
私は、日清食品を300年続く会社にしたいと考えています。もちろん、この数字そのものに意味があるわけではなく象徴としての数字です。しかし、変化の激しい時代に、現状維持は後退でしかなく、そのような企業はいずれ必ず腐敗します。
成功体験にしがみつかず、創造と破壊を繰り返しながら、自らをアップデートし続けなければならない。
変化を恐れない。むしろ、変化を楽しむ。いっそ、自ら変化を生み出す。
それが、日清食品のDNAであり、日清イズムの神髄です。
歴史を動かしたイノベーションには、共通点があります。
空気より重いものは飛ばない
――その常識を破壊したのが飛行機でした。
感染症は治せない
――その常識を破壊したのがペニシリンでした。
電気信号の増幅には空間が必要
――その常識を破壊したのがトランジスタでした。
情報は一方通行でしか届かない
――その常識を破壊したのがインターネットでした。
そして今、「創造は人間にしかできない」という常識すら、AIが書き換え始めています。
イノベーションとは、技術革新だけを意味する言葉ではありません。その本質は、“前提”を書き換える力にあるのだと思います。そしてその書き換えられた前提を人々の暮らしの中に根付かせ、“新しい当たり前”へと昇華させる力を持つのがブランディング・マーケティングです。
どれだけ時代が変わっても、人が食べることをやめることはありません。だからこそ、食の世界に残るまだ書き換えられていない前提を書き換え、食の可能性を、もっと広げていきたいと思います。
私たちが見据えているのは、ラーメンだけの未来ではなく、食の未来です。
これからも、新しい価値と新しい食文化を、世界へ創り出していきます。
VALUE REPORT 2026
02NISSINの成長戦略 [11.9MB]
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