CHROメッセージ
強い個が、強い組織をつくる―――
「日清食品はヒト」と言われる
企業グループへ
日清食品ホールディングス株式会社
専務執行役員・CHRO
濱瀬 牧子
価値観と誠実さへの共鳴、限りないポテンシャルへの確信
このたび、CHROに就任しました。私はこれまでも複数のグローバル企業でCHROを務め、事業成長の原動力となる人事戦略を担ってきました。今回のお声がけは、日清食品グループが「EARTH FOOD CREATOR」というビジョン実現の原動力となる「ヒト」の成長や、そのための仕組みづくりをグローバルな視点から牽引できる人財を必要としており、そこに私の知見が役立つと考えてくださったものと捉えています。
当初は、光栄なオファーではあるものの、食品業界は未知の領域であることへの戸惑いもありました。しかし、消費者との距離が近く、社員自身が日常的に自社商品に触れながら「仕事の意味」を実感できる業界だと知るにつれ、その迷いは薄れていきました。とりわけ、世界中の“食卓の変化”を成長の原動力とする事業構造のなかで、社員の成長が企業価値に直結する――人事として腕の振るいどころがあると感じました。
最終的に決断した理由は三つあります。一つ目は、経営陣との対話を通じて、「人に一層注力していく」という強い意思を感じ、「強い個が、強い組織をつくる」という私の価値観と一致したこと。二つ目は、社員一人ひとりから温かく誠実な雰囲気を感じ、「この人たちとなら変革を実現できる」と確信したこと。そして三つ目は、創業者の理念に根差した文化と、世界に広がる事業の未来に、限りないポテンシャルを感じたことです。
人の育成は、成果が見えるまでに時間を要します。だからこそ、長期的な視点で社員一人ひとりの成長に向き合うことがCHROの使命であり、その重さとともに、ワクワクするようなやりがいを感じています。
創業者のDNAを礎に、さらなる成長に向けた課題に挑む
着任※して半年ほどですが、さまざまな場面で社員の人柄の良さを実感しています。スキルや知識は後からでも身につけられますが、こうした人柄の根底にある心根や物事への感度は容易に養えるものではなく、当社グループの大きな財産だと捉えています。
その根源にあるのは、創業者の精神がDNAとして根付いているためだと考えます。「食足世平」に始まる4つのミッションや「日清10則」など、創業者の理念をわかりやすく、強いメッセージとして明示しており、社員の日々の行動につながっています。
一方、今後に向けた課題もあります。このDNAを世界各地の社員へ浸透させていく仕組みづくり、企業の成長スピードに対する人財の「量」と「質」の確保、グローバル化に対応した人事施策の本格整備、そして地政学リスクなど不確実性が高まるなかでも組織の機能と競争力を維持できる体制の整備――これらがCHROとして優先的に取り組む課題だと考えています。
※ 2025年10月1日着任
人事が自ら“ドライバーズシート”に座り、経営とともにハンドルを握る
従来、人事に対しては制度をつくる、ルールを守るといった「守り」のイメージが強かったかもしれませんが、これからは「攻め」の部分も重要だと考えています。具体的には、社員一人ひとりの持ちうる力を引き出し、チーム内で掛け算させることで組織の成長を牽引していくことです。
私はこうした人事のあり方を“ドライバーズシートに座る”と表現しています。従来は助手席で現場をサポートしたり、バックシートで後方支援をしたりが中心でしたが、今後は経営層や現場の社員と同じ目線で運転席に座り、自ら進むべき方向性を示し、動いていく。これが私の考える人事のあるべき姿です。
もちろん、人事が独走することではありません。経営や事業現場と同じ目線でハンドルを握りながら、社員と組織のポテンシャルを引き出す先導役を担う。そのためには、人事制度や法規に関する知見にとどまらず、事業現場や経営への理解と参画を通じて、経営戦略と人財戦略を一体化させていく必要があります。
あわせて、私が大切にしているのが「過去を否定しない」というポリシーです。これまで当社グループが積み上げてきたさまざまな人事制度や施策を白紙に戻すのではなく、何が機能していて何が機能していないかを丁寧に見極めたうえで、より実効性の高い形へ、かつダイナミックに一貫したストーリーをもって進化させていく——そのスタンスこそが、真の改革につながると考えています。
施策とKPIの実効性を高め、人財ポートフォリオを可視化する
制度改革を進めていくうえで気を付けないといけないのが、施策そのものが目的化し、本来の目的を見失ってしまうことです。日清食品グループのCHROとして、まず取り組むべきは、そうした事態を招かないよう、個々の施策について「何のためにやるのか」「施策同士がどうつながっているのか」を明確にし、わかりやすいストーリーとして社員に語れるようにすること。つまり、社員一人ひとりが自分ごととして理解できるよう、施策の解像度を高めていくことが重要です。
組織がグローバルに拡大するにつれて、個々のチームや社員一人ひとりにまで目が届きにくくなるという課題があります。そこで、DXやAIを積極的に活用し、詳細なデータをもとに、より合理的かつスピーディに打ち手を講じることで、きめ細やかな組織運営を実現してまいります。
こうした改革を進めるため、2026年度からの3カ年の中期人財戦略を策定しました。当該戦略においては、①成長戦略を支える経営体制の整備、②グローバル経営を支える人財マネジメント体制の高度化、③国内事業組織・人財基盤のさらなる強化を三つの軸とし、これらを支える組織力の向上と社内環境整備を通じて、人財基盤を強化し、成長戦略を推進していきます。
あわせて、人事に関するKPIの見直しも実施しました。その際も、仕組みや施策と同様に、従来のKPIを廃止するのでなく、確度を高めていくことを重視しています。例えば、キーポストの充足率については、全体だけでなくポスト単位でも測定し、欠員や課題なども含めて人的資本を可視化していきます。これらKPI整備を通じて、3年間でキーポストの「人財ポートフォリオを一望でき、次々と配置できる潤沢な人財プール」を整備していくことが目標です。
目標達成には、推進体制の整備が不可欠です。一つ目は、グローバルでの組織横断的な体制づくりです。人事業務はどうしても目先の突発案件への対応が求められるため、改革への取り組みが後回しになりがちです。その実現に向けては、推進体制の整備も進めています。二つ目は、機能別の縦割り運営にとどまらず、人事全体を俯瞰しながら重点テーマを横断的に推進する体制の構築です。各施策は必要な機能・専門性を持つメンバーが組織横断で参画する体制とし、人事部門全体がグループ全体の人財戦略を担う意識のもとで改革を進めています。そして三つ目は、HRBP機能(人事ビジネスパートナー)の強化です。国内外でHRBP体制の強化を進めることで、人事戦略と事業戦略の連動を一層高め、各事業の成長と組織能力の最大化を支えていきます。
求心力と遠心力のバランスで、グローバル・ワンの組織をつくる
当社グループの人事制度を考えるうえで、欠かすことのできないテーマがグローバルに機能する組織づくりです。そのための基本的な考え方として、「日本対海外」という対立構造で考えるのでなく、共通の価値観を軸にした一体的なチーム運営。私はこれを「グローバル・ワン」と呼んでいます。
創業精神や知的財産など、当社グループが培ってきた強みをグローバルに共有・発揮するためには、ヒトや情報を日本から世界各地に送り出すという従来型の手法が今後も必要になります。ただし、グローバルトップの食品メーカーに比肩する企業グループを目指すには、日本発の「求心力」と同時に、世界各地で活躍する社員が自律的に発揮する「遠心力」も高めていく必要があります。グループ共通の価値観を大切にしながら、地域ごとの特性や文化を尊重し、それぞれ最適な商品展開や営業手法を講じていくなど、求心力と遠心力をバランスよく発揮させていくことが求められると考えています。
こうした考えのもと、創業理念をはじめとするMission・Vision・Valueを国内外の全社員の「共通言語」として浸透させていきます。あわせて、グローバル・ワンの視点での最適配置と育成を推進し、真の一体感を持つ組織の実現を目指します。
「真の多様性」は、心理的安全性とフェアネスから生まれる
グローバル企業としての展開を図るうえで、ダイバーシティというと、国籍や性別、年齢といった表層的な属性が注目されがちです。しかし、私が本質と考えるのは、属性を問わず、良い行動をし、良い提案をする人が正当に評価される文化・風土を築くことであり、それこそが組織の成長にも直結するはずです。
重視しているのは、表層的な属性の多様性ではなく、経験から培われた価値観や感性といった、より深層的な多様性です。当社グループが扱う「食」は、文化と生活に密接に関わる産業だからこそ、多様なバックグラウンドを持つ人財を確保することが、消費者理解の深さやイノベーションの源泉となります。また、そうした多様性を真に機能させるためには、社員が属性に関係なく、自分の考えを堂々と発言できる心理的安全性と、それを担保するフェアネスを持った組織文化が不可欠です。これこそが、当社グループが追求すべきDE&Iの本質だと考えています。
もちろん、客観指標としての数値目標は設けています。ただし、数値の達成そのものを目的にしてしまうと、数字は動いても組織の実態は変わらないという本末転倒に陥りかねません。例えば、女性の管理職比率の向上であれば、消費者を理解するためにも最低限、市場の男女比率に近づけることが事業の推進力となる、といった自分たち流のロジックがあってこそ意味を持ちます。目的から逆算して施策を設計し、結果として数字がついてくる。そんな仕掛けづくりが大切だと思っています。
前述の人事戦略においても、DE&I自体が目的ではなく、ビジョン実現のための必然として位置付けています。DE&Iを高めることで、従業員のエンゲージメントが高まり、結果としてグローバル・ワンの組織が実現できる、そうしたロジックのもとに各施策を推進していきます。
5年・10年先を見据えて、「ヒト」に投資し続ける
「日清はヒト」という言葉が名実ともに成り立ったら、素晴らしいですよね。社員一人ひとりが力を発揮しながら、チームとして最大の価値を創出する。そんな「最高・最強の組織」を実現していきたいと考えています。社員自身が誇りに思えるだけでなく、お客様や取引先、株主・投資家の皆さんなどステークホルダーから「日清食品はヒトが違う」と評価される組織になれば、人事担当者として、これ以上の喜びはありません。
人的資本は短期で成果が見えるテーマではありません。しかし、5年・10年という中長期的なスパンで見た時、当社グループの持続的な成長を支える「見えざる資産」にほかなりません。2026年度からの3カ年中期人財戦略を第1ステージとし、その成果を踏まえて次のステージへと発展させていきます。「ヒトがすべて」という信念のもと、社員づくりや組織づくりを通じて日清食品グループをより強く、しなやかな企業へ変えていきます。中長期の視点からこれからもご支援をいただけると幸いです。
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