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「コーポレート・バリュー・エンハンサー」として“攻め”と“守り”の両面から価値創造を最大化する

日清食品ホールディングス株式会社
執行役員・CFO

矢野 崇

グローバル企業として今後のポテンシャルを示した1年

2022年度の業績は、売上収益、各段階利益ともに過去最高を更新し、前期の成長率をさらに超える2桁での成長となりました。当初は、不安定な国際情勢や資材コストの高騰、円安進行の中で苦戦を予測する向きもありましたが、海外事業において想定を上回る需要増があり、売上増加による増益要因がコストの増加分を大幅に上回って業績を大きく牽引しました。また、非即席めん事業も堅調な伸びとなりました。
事業ポートフォリオについては、コロナ禍の3年を経て、我々が望む方向に大きく変わってきています。KPIとしているコア営業利益における海外事業の比率を2020年度の約30%から2030年度に約45%とする目標を立てていますが、今期既に46%まで高まっています。これは当社がグローバル企業へと進化したことを示す数字だと認識しています。
非即席めん事業の成長については、睡眠の質の改善に寄与する商品が好調な飲料事業や、リブランディングで主力商品の販売が好調な湖池屋を中心とする菓子事業が牽引しています。菓子事業では、健康志向の高まりや食の簡便化といった消費者行動の変化に注目した新しい商品の開発にチャレンジしていきたいと考えており、新規事業で進めている栄養とおいしさのバランスを意識した取り組みとあわせて、“食を通じた健康価値”の創出でグループシナジーの発揮が期待される状況になってきました。マーケティングにおいてもグループシナジーを追求し、CMをはじめ日清食品グループならではのアプローチを日清ヨークや湖池屋でも展開することで各社のブランド価値向上に成功しています。また、新規事業においても2022年5月から「完全メシ」ブランドの展開を開始していますが、発売約1年で1,000万食を突破し、数々の賞を受賞するなど注目を集め、好調なスタートとなりました。その結果、市場売価ベースでの年間目標30億円を達成しています。
このように総じてポジティブに事業ポートフォリオの変革と拡大を実行できており、2022年度はグローバル企業としての新たな成長ステージでのポテンシャルを示した1年だったと評価しています。

2022年度 連結決算サマリー

単位:億円
2022年度 決算開示ベース 2022年度 為替一定ベース
実績 前期比 実績 前期比
増減額 増減率 増減額 増減率
売上収益 6,692 + 995 + 17.5% 6,317 + 619 + 10.9%
既存事業コア営業利益 602 + 106 + 21.5% 561 + 65 + 13.1%
営業利益 556 + 90 + 19.4% 514 + 48 + 10.4%
親会社の所有者に帰属する
当期利益
448 + 93 + 26.4% 408 + 54 + 15.2%
既存事業コア営業利益率 9.0% + 0.3pt 8.9% + 0.2pt
営業利益率 8.3% + 0.1pt 8.1% △ 0.0pt
親会社の所有者に帰属する
当期利益率
6.7% + 0.5pt 6.5% + 0.2pt

米国日清における税効果会計適用等による約44億円の影響含む(当期利益の増加要因)

2023年度は、売上収益7,100億円、既存事業コア営業利益640億円と、それぞれ前期比+6%超の増加を計画しており、引き続き、中長期成長戦略で掲げるMid-single Digitでの成長を堅持していきます。

2023年度 通期連結業績計画

売上収益 7,100億円 前期比
+6.1%
既存事業コア営業利益 Mid-single Digitでの成長を継続
640億円
新規事業投資を既存事業コア営業利益5~10%で実施
+6.3%
営業利益 575 ~ 605億円 +3.3~+8.7%
親会社の所有者に帰属する
当期利益
425 ~ 445億円 △5.1~△0.6%
EPS 419 ~ 439円/株

計画に係る円表示数値は全て22年度実績レート

成長投資に優先順位を付け、新たな成長軌道を描く

2022年度の好業績を受けて、「キャッシュフローマネジメント」と「リソースアロケーション」をさらに重視していきます。
「キャッシュフローマネジメント」については、中長期成長戦略で第一に掲げる「既存事業のキャッシュ創出力強化」を着実に遂行していく枠組みを作るため、成長の原資をいかに確保して拡大していくかが重要だと考えています。その中で、EBITDAは2022年度が845億円、2023年度も900億円程度を予定するなど、2018年度の500億円強と比較すると5年間で大きく増加しており、順調に成長原資を確保できている状況です。

ただし、今後は売上増加に伴う運転資金・設備投資も必要になります。また、国際情勢の悪化や自然災害に伴う予期せぬ事態への対応も考えると、中長期のキャッシュフロー予測・管理の重要度はますます高まっていくため、資金管理の精緻化を実施し、適切な水準のキャッシュ確保を目指していきます。今後、より効果的なファイナンス手法についても研究を進めていきます。現在、KPIの一つとして定めている財務の安全性指標である、純有利子負債に対するEBITDAの倍率はマイナス圏、すなわち預金超過の状況で推移していますが、今後資金需要が出てきた場合でも、2倍以内という設定目標を念頭に、中長期的な成長につながる有効な負債の活用方法を検討していきます。

EBITDAとキャッシュフローの推移

EBITDA
EBITDAのグラフ
キャッシュフロー
キャッシュフローのグラフ

「リソースアロケーション」については、喫緊の課題である生産能力の増強に注力していく考えです。具体的には、米国第三工場の設立や国内外における各事業拠点での増産対応を中心に、2023年度は700億円の設備投資を計画しています。近年は300億円前後の設備投資が続いていましたが、世界的な当社グループの製品に対する需要増に伴い、既存の製造設備ではカバーしきれない状況が生まれており、今後の成長に向けた設備投資を優先的に実施していきます。加えて、即席めんは技術的に非常にシンプルな商品だと思われがちですが、実は製麺や具材、栄養素のコントロールにはさまざまな技術が求められます。それらの製造設備を自社開発していることが当社の競争力の源泉でもあるため、昨今のESGへの貢献も含めて、慎重に優先順位をつけて設備投資の計画に織り込んでいく必要があります。さらに、当社グループの新たなビジネスの柱として育てていく新規事業への投資も不可欠であり、これらは引き続き、既存事業コア営業利益の5~10%を目安に投資を計画していく考えです。
こうした投資の検討に際しては、経営会議の諮問機関で、私が副委員長を務める「投融資委員会」で最初に審議をしています。そこでは国別のリスクを勘案したハードルレートに基づいて算出したNPV(Net Present Value/正味現在価値)やIRR(Internal Rate of Return/内部収益率)、回収期間などを投資採算性の指標とした枠組みを構築し、ESGやSDGsの観点なども勘案した上で、投資を判断しています。さらに、投資の実行に当たっては、計画達成の前提となる各種KPIを設定し、この進捗についても定期的にモニタリングして投融資委員会や経営会議に報告し、ガバナンスを効かせた運営を実施しています。
最後に、株主還元については累進的配当を採用し、業績の上下があったとしても配当金を減らさないことを基本に、配当性向40%を目安に実施する方針です。加えて、TSR(Total Shareholder Return/株主総利回り)がTOPIX食料品を上回る水準であることを目標としていますが、今後もこの水準を維持していきます。自己株式取得については、利益成長と投資のバランスに留意し、株価水準や手元資金の状況などを勘案し、機動的な実施を検討していきます。
なお、政策保有株の縮減については、2021年5⽉に2年程度で100億円を⽬途とした追加売却を実施していく⽅針を公表していましたが、既に2年間で114億円を売却し、超過達成しており、2023年3⽉末時点の資本合計に占める⽐率は9.4%まで⼤幅に低下しています。今後は、具体的な数値⽬標の設定はしないものの、社内で定めている基準に基づき縮減を継続していきます。

財務観点で、企業価値を高め、リスク管理を根付かせる

私は、財務・経理部門のビジョンを「コーポレート・バリュー・エンハンサー」と定義しています。つまり、“攻め”となるグローバルベースでの先見的な企業価値の向上と、“守り”であるゴーイングコンサーンの維持とコスト最小化の両面から、日清食品グループの価値創造を最大化させる存在である――そのことを国内外のスタッフと共有しています。
当社グループの現状のPBRは3倍弱で、今年から新設されたJPXプライム150指数銘柄にも選定されていることから、企業価値の水準については一定の評価をいただいていると認識しているものの、まだまだ十分ではありません。株価を意識した経営が求められる中、当社グループがいかなる成長余地を有しているか、どういった非財務価値があるのかなど、社内でも気付けていないことを可視化してストーリーとして投資家に伝えていくことは、ますます重要になってくると考えています。
こうした考えのもと、2022年度はIRコミュニケーション全般の底上げを図るべくIR活動を強化しました。特に、海外機関投資家とのコミュニケーション強化を意識し、対面による海外IRを再開しました。2022年度は、300件程度実施した投資家面談のうち、半数以上が海外の投資家対応となりました。その結果、2022年度末時点での海外株主比率は、従来の20%を下回る水準から23%まで上昇しています。さらに、アナリストや投資家ニーズの高いテーマに絞ったIR説明会も開催しており、今後は個人投資家向けIRやSR活動の強化も図りながら、適正株価の形成を目指していきます。こうした活動を評価いただき、日本証券アナリスト協会が毎年発表している「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」において、当社は今年、「ディスクロージャーの改善が著しい企業」に選定されました。食品部門のランキングでも昨年の8位から5位に上昇しています。
資本効率の改善については、中長期的にROE10%という目標を掲げていますが、2022年度は既に10.7%となっており、今後は、中長期で恒常的に10%台の水準を維持できる経営体制の構築を進めていきます。

守りの面では、経営における正確性の担保に、より注力していきます。商いや経営における3原則として“か・け・ふ”、すなわち「稼ぐ・削る・防ぐ」という言葉がありますが、現在の当社グループは“稼ぐ”においてはもちろん、“削る”においても、既にDX推進を中心に取り組みを進め、一般管理費比率は順調に低下しているとともに、事業部門が付加価値創造業務に割く時間を増加させてきています。当社グループは各事業規模がグローバルに拡大している成長ステージ期にあり、今後、不正や不祥事といったマイナス面をいかに“防ぐ”かが、より重要度を増してくると考えています。具体的には、マネジメントにおける「3線モデル」の枠組みを強化し、組織全体として運用し、モニタリングを十全に機能させていく考えです。不正や不祥事は、特に財務面で顕在化しやすいため、第2線に当たる財務・経理部門が主導し、第1線が取り組むべきことやルールなどを規定し、それをモニタリングし、第3線での第三者チェックを行うことで、組織全体でガバナンスを効かせていきます。
メーカーの場合、第1線の営業・製造の現場が強く、全てを現場に委ねがちになってしまう企業もあるようですが、当社では、ガバナンスを担保する鍵を握っている、第2線である当部門が主導してリスク管理の仕組み・カルチャーを構築していきます。そのために、グループの財務・経理スタッフが集まる国内外のファイナンスミーティングを定期的に開催し、3線モデルの理解醸成、運用における実践課題などを共有しています。

さらに、想定を上回る速度で事業のグローバル化が進んでおり、財務リテラシーを持つグローバル人材の育成・輩出も大きな課題です。財務やマネジメントに関する教育研修の強化や他部門との人材ローテーションの制度などの整備を図りながら、財務リテラシーの全体的な底上げを図っていきます。 これらの活動を通じて株主・投資家の皆さまとのコミュニケーションを最大限に重視し、中長期的かつ安定的な信頼関係を築いていけるよう全力で取り組んでいきます。

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