日清食品グループ

リセット

ESG課題の定量化分析

ESG課題の定量化分析

非財務資本と企業価値の関係性を明らかにするため、2021年に引き続き柳モデルを活用した俯瞰型分析を実施しました。また新たな分析「Value Tree Analytics(VTA)」で人的資本に関連する施策とその効果(エンゲージメント向上への相関)の分析に挑戦しました。

Q.2022年はどのような分析を実施したのですか?

A.2022年度はESG (非財務) の取り組みがどのようにReturn (企業価値) に関係しているかを定量的に表すため、「俯瞰型分析」と「価値関連性分析」を深化させた「Value Tree Analytics(VTA)」を実施しました。
俯瞰型分析は、ESG指標とPBRの直接の相関を分析する柳モデル※1を活用しています。ESG活動(KPI)を1%改善した際、何年後の何%のPBR向上につながるのか(遅延浸透効果)を示すことができます。今回は分析対象とする指標を、前回の198から303指標に増やしています。
結果は303指標のうち113個の指標でPBRに有意で望ましい相関※2が検出されました。前回の198件中79件と比べ約1.5倍で望ましい相関がでており、この要因はデータ年数の追加等による分析の精度向上と考えています。
2021年度の統合報告書で公表した創業者精神に基づくESG活動でも、数値に変化がみられていますが、4つの指標で遅延浸透効果が早まっており、改めて企業価値向上との正の関係性があることを確認できています。

“CFOポリシー(中央経済社2020)“にて柳良平氏が開発したモデルに基づき、アビームコンサルティングのDigital ESG Platformで分析(2021年3月/2022年3月)

指標の値が上昇を目指すべきものか下降を目指すべきものかを考慮し、分析結果の相関の正負が望ましいと想定されるものと一致している場合に「望ましい相関」としている。数値の妥当性は第三者を入れて検証している。

Return on Sustainability Index:ESGアクションと株価純資産倍率(PBR)の関連性

“CFOポリシー(中央経済社2020)“にて柳良平氏が開発したモデルに基づき、アビームコンサルティングのDigital ESG Platformで分析(2021年3月/2022年3月)

SASBマテリアリティマップをはじめとする各種外部評価機関の項目を考慮し、将来的な財務インパクトが高いと想定されるESG要素を特定した当社の重点取組テーマ

Q.俯瞰型分析の結果をどのように捉えていますか?

A.日清食品グループの分析結果を客観的に捉えるため、同様の分析を実施している他社と、望ましい相関の割合を比較すると、環境(E)項目で自社29.3%、他社平均18.6%、社会(S)項目で自社42.1%、他社平均16.0%、ガバナンス(G)項目でも自社21.4%、他社平均17.2%との結果となり、前回結果と同様にすべて他社平均を上回りました。この結果から、自社は企業価値へ寄与するESG取り組みの割合が多いことがわかります。
また、「企業価値を向上させるESG指標TOP30※5」他社平均数値と自社の数値の比較も行いました。結果、自社には該当指標が28指標あり、うち15指標で有意で望ましい相関を検出することができました。なかでも何年後のPBR向上につながるのかを表す「遅延浸透効果」が他社平均より短い指標が、自社にとって企業価値向上へ即効性のある指標となります。今回の比較で遅延浸透効果が短かった指標は8指標となり、育児時短勤務や海外トレーニー制度利用者数といった人的資本関連数項目に多く見られています(図表赤字)。

2022年6月アビームコンサルティングが「柳モデル」を使用して過去に実施してきた日本企業の分析結果をまとめ、企業価値と相関が認められやすいESG指標の上位30を公表。

ESGトピック 指標名 単位 日清食品
遅延浸透
効果 (年)※6
感応度 (%)
従業員の採用 キャリア採用数(男性) 5 0.167
従業員の採用 キャリア採用数(女性) 0 0.246
従業員の定着 退職者数/離職者数(女性) 3 -0.43
人材の登用 新規管理職登用数 7 0.67
知的財産の獲得・保護 登録特許件数 国内 3 0.9
国外 1 0.418
循環型社会の実現 リサイクル率 5 49.1
地域社会との関わり 工場・ミュージアム・ショールームなどの見学来場者数 7 0.453
従業員の採用 社員数 0 0.789
気候変動への対策 CO2排出量- スコープ2 t-CO2 9 -0.64
仕事と育児の両立 育児短時間勤務利用者 1 0.65
大気汚染物質の排出削減 Nox排出量 t 7 -0.92
人材の育成 海外トレーニー制度利用者数 2 0.35
人材の育成 従業員一人あたり研修時間 時間/人 2 0.662
従業員の採用 障がい者雇用率 0 1.232

遅延浸透効果は何年後にPBR と相関するかを示す。感応度は、ESGが上昇(もしくは下降)したときのPBRの上昇率。

Q.新しい分析Value Tree Analytics (VTA)について教えてください。

A.日清食品グループの価値創造プロセスにおける、資本(資本として投入し実施した施策)から、アウトカムである経済価値・社会的価値の創出が企業価値向上につながる流れを検証するため、2021年度は価値関連性分析を実施しました。価値関連性分析では、ESG指標と企業価値の相関性に加えて「ESG指標同士の相関性」を分析しており、各ESGの取り組みがどのような経路を辿り企業価値の向上につながるのか、各施策の成果である指標と企業価値向上の相関の実証をストーリーの形で示しています。それぞれの相関をみることで仮説を統計学的に実証できましたが、指標のもととなる施策、アクション単位での効果までは検証できていないという課題がありました。そこで施策への効果を定量化する試みとして、「Value Tree Analytics(VTA)」を行いました。分析に当たっては、重要度およびデータ保有粒度を加味し、人的資本領域を対象としました。

分析は人的資本領域に関する課題を、人材マネジメントプロセスを網羅する形で整理し、それらに紐づく施策が、性別・職種(部署)別にどのようなエンゲージメント要素※7の向上につながっているか、その相関の有無を検証しました。

結果、Value Tree Analytics(VTA)により、価値創造プロセスにおける日清食品グループのValueを体現する人的資本の施策が、各部門のワークライフバランス推進等のエンゲージメントに寄与しており、アウトプット/アウトカムを創出し企業価値向上につながっていることを実証することができました。
定量化した結果を比較すると、例えば女性リーダー育成プログラムが、女性の「部署環境」「会社環境」「成長実感」といったエンゲージメント向上に大きく寄与する傾向がわかりました。これらの施策は、定着率の向上、知的資本の拡充を通じてシェアホルダー価値の向上をもたらす、重要で効果的な施策と捉えることができると考えています。

日清食品グループでは、5テーマ(働きやすさ、働きがい、部署環境、会社環境、上司)の32項目からなる従業員エンゲージメント調査を実施している。

Value Tree Analytics(VTA)

人的資本領域に関する課題を、人材マネジメントプロセスに基づき整理し、それらに紐づく施策が性別・職種別にどのようなエンゲージメント要素の向上につながっているか、その相関有無を検証。

VTA結果の一例

いずれもP値は0~0.05(有意な相関が見られる)、決定係数は0.01~0.045

一か月に10日以上テレワーク制度を利用している従業員

また今回の分析により、昨年の価値関連性分析で示した人的資本がアウトプット/アウトカムの創出を行い企業価値向上につながるまでの流れ(ストーリー)を、実際に行われている施策からも実証することができました。

「ESGアクション同士の相関性」の分析

人材関連施策のVTA分析

人事制度等の人材への取り組みが、社員の多様化につながり、社員の多様化を支える従業員定着施策やグローバル人材育成施策が多様な社員の活躍を促し、多様な社員の活躍を支える施策の一つである女性の活躍推進やワークライフバランス施策が残業時間の削減を実現し、従業員エンゲージメントの向上につながっている。

2023年度に向けて

ESGと企業価値の関連性を定量的に示せるようになってきました。しかし施策実施の順位付けに利用するためには、分析手法を検証していくとともに、施策の実効性を評価・モニタリングする体制を強化し、データの質を向上させていくことが課題と認識しています。また今後は、自社の企業価値向上の定量化に留まらず、日清食品グループが社会にもたらすインパクトの定量化にも挑戦していきたいと考えています。

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